覚せい剤、シンナーなど違法薬物の後遺症に対する障害年⾦の取り扱いです

投稿日: カテゴリー: 制度解説

覚せい剤、シンナーなど違法薬物の後遺症に対する障害年⾦の取り扱い

覚せい剤、シンナーなどの違法薬物の使⽤による後遺症は、原則として障害年⾦は⽀給されません。これを給付制限といいます。

何故、覚せい剤の後遺症だと障害年給されないのか?

国民年金法と厚生年金保険法には給付制限の条文があり、給付制限には絶対的給付制限相対的給付制限があります。

初めに絶対的給付制限について説明します。

絶対的給付制限は国民年金法69条と厚生年金保険法73条で定められています。

国民年金法の条文で解説します。

 

国民年金法第69条 (絶対的不支給)

故意に障害又はその直接の原因となった事故を生じさせた者の当該障害については、これを支給事由とする障害基礎年金は、支給しない。

 

逐条解説・・・厚生福祉/昭和53年4月8日国民年金法逐条解説47から

本条は故意の事故によって生じた障害に対する障害年金は絶対的に不支給とする旨を規定したものである。

1.「故意」とは一般的に「過失」に対する語であって、一定の事実を認識していることをいい、障害年金の場合、自分の行為が必然的に障害または死亡等の一定の結果を生ずべきことを知りながらあえて行為をすることをいうとされている(昭和34年8月21日年福発第30号)したがって、自殺を図ったが、未遂の場合にあっては、自殺医行為をなすときは死亡についての意思はあったとしても、障害になることの意思はなかったものと考えられるので、自殺を図った結果、未遂に終わり障害になったとしても、障害についての故意は欠けているので、本条には該当しないと解されている。

2.「支給しない」とは、」所定の支給要件を満たしても、基本権たる受給権を法律上発生させないという意味である

通ちょうから

1)故意とは

「故意」とは、自分の行為が必然的に障害又は死亡等の一定の結果を生ずべきことと知りながらあえてすることをいい「重大な過失」とは一定の結果を生ずべきであることを何人も容易に知るべきでありながら不注意で知らないですることをいう。(昭和34年8月21日年福発第30号)

(2)夫の自殺と母子福祉年金等

法69条の規定は、障害給付の規定であって、遺族給付については適用されないので、夫の死亡が自殺による場合でも、母子福祉年金は支給される。また同条は、故意の行為に基づいて年金給付の原因となる事故の偶然性がそこなわれることを防止する趣旨であり、自ら障害となる意図をもって障害の直接の原因となった事故を生じさせた場合を年金給付の対象から除外するものと解すべきであり、自殺未遂行為によって障害となっても、障害福祉年金の支給制限は行わない。(昭和34年9月21日年発第182号)

簡単に説明すると、『覚せい剤やシンナーなどの違法薬物使⽤は、後遺症が発症するリスクを知りながら使⽤したので、障害年⾦は⽀給しません』というのが⽀給制限の理由となります。

 

ここからは相対的給付制限について説明します。

相対的給付制限は国民年金法70条と厚生年金保険法73条の2で定められています。

国民年金法の条文で解説します。

 

国民年金法第70条(相対的な支給制限)

故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、障害若しくはその原因となった事故を生じさせ、又は障害の程度を増進させた者の当該障害については、これを支給事由とする給付は、その全部又は一部を行わないことができる。自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、死亡又はその原因となった事故を生じさせた者の死亡についても、同様とする。

 

逐条解説・・・厚生福祉/昭和53年4月8日国民年金法逐条解説47から

本条は故意の犯罪行為または重大な過失等が、障害または死亡といった事故と因果関係にある場合における障害年金、遺族年金等の年金給付については、不支給またはその給付の一部について給付をしないことができる旨を規定したものである。

1.「故意の犯罪行為」とは、過失による犯罪行為は含まれない。

2.「過失」とは、一般的には故意に対する語であって、一定の事実を認識すべきにもかかわらず、不注意によってこれを認識しないことをいうとされており、本条でいう「重大な過失」とは、不注意で一定の結果を生ずべきであることを何人も容易に知るべきでありながら、知らないですることをいうとされている((昭和34年8月21日年福発第30号)

3.「障害を支給事由とする給付」とは、障害年金給付のことであり他の年金給付は含まれない。

4.「その全部又は一部を行わないことができる」とは、故意の犯罪行為または重大な過失の程度等を勘案して支給制限の範囲を行政庁が決定できるということであり、制限を行ったならば、その限度において、基本権たる受給権そのものが発生しない。

なお、一部制限が行われる場合については、まれであると思われるが、令別表に2級に該当し、2級の障害年金を受ける者が、医師がなす療養上の注意に従わず、障害の程度が増進し、令別表の1級に該当したような場合であっても、2級から1級に増額改定は行われないというような制限である。

5.次に本条後段において「自己の」と限定されているが、これは、他人の故意の犯罪または重大な過失によって死亡した者の遺族にも遺族年金等を支給するという点を明白にしたものであって、本条前段においても「自己の犯罪行為もしくは重大な過失」に限るものと解釈するべきが当然である。

なお、自殺は、故意の犯罪行為もしくは重大な過失に該当しないから、法69条と同様に、給付制限の対象とならない。

6.「事故を生じさせた者」とは、次条第71条に掲げる死亡者と同じ範囲であり、夫、男子たる子、父、祖父および被保険者または被保険者であった者である。

7.「同様とする」とは、本条前段の「障害」の場合と同様、後段の「死亡」を「支給事由とする給付」についても.、その給付を行わないことができるという意味であり、遺族年金等にあっては、事故は単一であるので、障害年金における給付制限とは異なり、一部給付制限はあり得ない。

本条後段に規定する給付制限の対象となるものは、死亡を支給事由とする遺族基礎、寡婦の各年金給付および死亡一時金である。

通ちょうから

(1)法第70条後段で「自己の」と特に規定したのは、他人の故意の犯罪行為又は重大な過失によって死亡した者の遺族にも母子福祉年金等を支給するという点を特に明白にしたもので、前段においても(第三者の行為ではなく)自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失を言う。(昭和34年9月16日年福発69号)

(2)自殺は、故意の犯罪行為若しくは重大な過失に該当しないので、法第70条による給付制限は受けない。(昭和34年9月16日年福発69号)

(3)エチルアルコール中毒による両眼失明、後天性の梅毒、淋病であって、受給権者が障害の原因となる行為をした当時、障害の結末を生ずべきであることを何人も容易に知り得る技術が存在しなかったものと認定した場合、法第70条の規定の適用はないものと解してよい。(昭和35年2月15日年福発42号)

(4)夫の死亡の原因が、飲酒上の争いによる偶発的な傷害の結果によるものであり、故意の犯罪行為により死亡したものとみなすことが困難で、また、重大な過失により死亡したものとする根拠も乏しい場合は、法第70条後段の規定の適用は受けない。(昭和37年2月12日年福発11号)

(5)国民年金法第70条は、いわゆる相対的な支給制限を定めた規定であり、本件の事例(飲酒運転により、全面過失の自動車衝突事故を起こし、障害者となった)については、年金支給の趣旨及び事故の内容から同条を適用することは、妥当でないと考えられるので、障害年金を支給されることとされたい。(昭和48年8月9日庁文発1750号)

簡単に説明すると、違法薬物の後遺症では原則的に障害年⾦が⽀給されることはありません。

違法薬物を対象とする給付制限は『故意(わざと)』という⼤前提があります。そのため脅迫や暴⾏などによる違法薬物を無理やり使⽤させられたケースは給付制限を受けず、⽀給の対象となります。

⼯場や塗装業など仕事上でシンナーなどの有機溶剤を扱うような場合についても『故意(わざと)』には該当しないため、障害年⾦の⽀給の対象となります。

厚生年金保険法にも国民年金法と同様の内容の条文があります。

厚生年金保険法第七十三条(絶対的不支給)

被保険者又は被保険者であつた者が、故意に、障害又はその直接の原因となった事故を生ぜしめたときは、当該障害を支給事由とする障害厚生年金又は障害手当金は、支給しない。

厚生年金保険法第七十三条の二(相対的な支給制限)

被保険者又は被保険者であつた者が、自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生ぜしめ、若しくはその障害の程度を増進させ、又はその回復を妨げたときは、保険給付の全部又は一部を行なわないことができる。

<参考>平成18年1月31日の社会保険審査会裁決で認められたものがあります。

国年法第69 条を適用するためには、覚醒剤施用により故意に障害を発生させるという意思の存在が積極的に証明されなければならないから、本件に同条を適用することはできず、障害の原因となった「覚醒剤精神病」が犯罪行為によるものであることを理由として、請求人に対し障害基礎年金を支給しないとした原処分は取り消し。       (平成18 年1月31日裁決)

この案件は、次のような内容です。

小学生の頃に熱性痙攣にかかり抗痙攣剤を服用。中学2年生頃から有機溶剤(シンナー)、覚醒剤を使用するようになった。高校1年になって家出し暴力団関係者と関係を持ち、妊娠して帰宅、妊娠中絶を受けた後、再び家出し、その後錯乱状態になって帰宅。覚醒剤の使用が認められ医療少年院に入所。医療少年院では、統合失調症と診断された。しかし、少年院を退院してすぐに受診した療養所で覚醒剤精神病と診断。その後26歳まで入退院を繰り返していました。

請求人は、覚醒剤精神病で障害基礎年金の裁定を請求した。

社会保険庁長官は、障害の原因となった傷病が犯罪行為によるものであることを理由として、請求入に対し障害基礎年金を支給しない旨の処分をした。

審査会では、覚醒剤使用が「犯罪行為・故意」だということで障害基礎年金の支給が認められていことについて、この「犯罪行為・故意」が本当に真実なのか検討されました。

家出中の覚醒剤使用が彼女の意思で行われたものなのか、暴力団が若い女性をその支配下に置くために、半ば強制的に覚醒剤依存の状態に陥らせたのではないか、当時彼女は16歳にすぎなかったことを考慮すれば、その覚醒剤使用の多くが、故意に障害を発生させるという意思のもとに行われたと断定するのは困難であろうという結論になっています。

そして、第69条を適用するには「故意」の存在を積極的に証明する必要があり第69条は適用できない。結果、障害基礎年金2級が認められています。

 

この事例では日本年金機構・地方の社会保険審査官には認められませんでしたが、幸いに社会保険審査会で支給が認められました。但し、この判例があるかとして誰でも最初から日本年金機構に障害年金支給が認められるものではありません。

 

アベ政権が危機になるとよく芸能人の覚醒剤使用がマスコミをにぎわしますが、芸能人に限らず、日常生活での過剰なストレス等から、逃れたいとの気持ちから薬物に走るのでしょうが、その代償は本人や家族にとって大きいものだと言わざるを得ません。

 

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